【Moho開発記】1000行の数学を捨てて辿り着いた境地。背景・小道具構築ツール『FoldWeaver 3D』誕生秘話
1. はじめに:キャラクターが立体的に動いたその先で
Moho向けリギングツール『Rigweaver』を完成させたことで、キャラクターを俯瞰(ハイアングル)や煽り(ローアングル)の強烈なパース感の中で自在にアクションさせられるようになりました。
しかし、キャラクターがどれだけリッチに空間を駆け巡っても、すぐに次の巨大な壁にぶつかりました。
「……このパースに合わせた背景(バックグラウンド)や小道具(Prop)を、Mohoの中で作るのは無理ゲーでは?」
空間をスピーディーに構築できなければ、せっかくの立体アニメーションも活きてきません。「Mohoの中で、手描き感覚のまま立体空間をパパッと組めるツールを作ろう」――そう決意したのがすべての始まりでした。
2. 挫折の『HoldWeaver』:1000行超の巨大スクリプトと座標計算の地獄
最初に開発したのは、ターゲット吸着方式を採用した『HoldWeaver』でした。
- 空間上に「ターゲット(基準マーカー)」を配置する
- スナップさせたいパーツの2点とターゲットの2点を指定する
- スクリプトが自動でワールド座標・親ローカル座標・オイラー角を計算し、ターゲットへ吸着させてヒンジ(蝶番)で折り曲げる
一見すると正統派なアプローチでしたが、開発が進むにつれて底なしの泥沼へとハマっていきました。
【当時のHoldWeaverの苦闘】 ・ソース2点とターゲット2点の選択キャッシュ管理 ・親グループのスケール・回転・Z移動が何重にも重なる複雑怪奇なマトリクス計算 ・階層が深くなるほど累積する、浮動小数点数による「微妙な座標のズレ」 ・スクリプトコードは1000行を突破……
何より致命的だったのは、「作業していて全く楽しくない」ことでした。「ターゲットを作って、面を選んで、スナップを押して、角度を入力して……」と、思考のスピードがツールの手間で完全にストップしてしまい、背景や小道具を手軽に量産することなど到底できませんでした。
3. コペルニクス的転回:「中央に持ってきてから動かせばいい」
「ターゲットに合わせて吸着させるから、計算が爆発してズレるんだ」
そう気づいた瞬間、思い切った発想の転換(断捨離)を行いました。
複雑なワールド座標の追跡をすべて捨て、
- 選択した面の2点を、原点のX軸またはY軸にピタッと合わせる(原点と回転軸=ヒンジを自動確定)
- あとはMoho標準の回転・移動ツールで、紙を折るように展開する
この構造にした瞬間、1000行あった座標計算の呪縛から完全に解放され、ズレもゼロになりました。
さらに、ツールを切り替えない「Button(ワンショット実行)+キーボードショートカット」の構成に徹底したことで、ポイント選択ツールを持ったまま [ショートカット] → [ショートカット] と、キーボードを叩くだけでガツガツ背景が組み上がる超高速ワークフローが完成しました。こうして生まれたのが『FoldWeaver 3D』です。
4. 背景だけじゃない! 小道具(Prop)制作での圧倒的な威力
FoldWeaver 3Dの真価は、背景(部屋や街並み)だけにとどまりません。
机、椅子、本、宝箱、家電、乗り物といった「アニメーション用小道具(Prop)」のモデリングでも凄まじい威力を発揮します。
平面にペーパークラフトの「展開図」を描き、FoldWeaverでポン・ポン・ポンと立ち上げていくだけで、どんな立体小道具も数分で組み上がります。
5. 【最大のブレイクスルー】立体レイヤーの上に「線を引く」「影(Fill)を塗る」が驚くほど簡単に!
Mohoには標準でもレイヤーを3D立体化(厚み付けや3D回転)する機能があります。しかし、アニメーション制作者なら誰もがぶつかる壁がありました:
- 「立体化したのはいいけれど、思い通りの場所に枠線やディテール線が引けない」
- 「思い通りの面や影(落ち影・ハイライト)を塗りつぶせない」
3Dオブジェクトにしてしまうと、アニメ特有の手描き線やセル画調のカッコいい陰影(嘘の影)をコントロールするのが極めて難しくなります。
💡 FoldWeaverの魔法:『合わせて、曲げて、ずらす』だけ!
FoldWeaverを使えば、この問題が一瞬で解決します。
【立体レイヤーに線・影を貼り付ける3ステップ】
①「合わせる」 (Align): 描いたベクターの2点を基準にスナップ
②「曲げる」 (Rotate): 立体モデルの面の角度に合わせてヒンジ回転
③「ずらす」 (Offset): 面の表面へスッとオフセット配置
すでに立体になっているモデルの表面に対して、まるでマスキングテープを貼るような感覚で、新しい線や塗りつぶし(Fill)を自由自在に重ねていくことができます。
- 面の上に窓枠やパネルラインなどの「枠線(Stroke)」を引く
- 光の当たらない面だけにアニメ調の「落ち影(Fill)」を重ねる
- 角にハイライト線を描き足す
これらがすべて、Mohoの使い慣れたベクターツールの質感・線幅ツールの設定を100%保ったまま、思いのままに実現できるようになりました。

6. おわりに
「複雑な計算による自動化」を目指して挫折したHoldWeaverの経験があったからこそ、「直感と手描き感を最優先したシンプルさ」を持つFoldWeaver 3Dへ辿り着くことができました。
Rigweaver(キャラクター)とFoldWeaver(背景・小道具・スタイリング)。この2つが揃ったことで、Mohoでの2.5Dアニメーション制作はまったく新しい次元に入ったと確信しています。
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